蒼穹 > Text Archives > CPTSD > CPTSD 1

CPTSD/人格障害からの回復・成長のために 1
CPTSDへの認識不足

 
 日本の精神医療体制は、きわめて貧困である。
 子ども虐待(child abuse)による長期反復性外傷を受けたトラウマ・サバイバー(survivors of trauma)として、ジュディス・L・ハーマンが提案した新しい診断名であるCPTSD(Complex Post Traumatic Stress Disorder/複雑性外傷後ストレス障害)を発症している患者/クライエントに対して、精神科医や臨床心理士をはじめとする精神医療関係者の認識不足、無理解・不勉強・無能力ぶり、そして、非協力的姿勢・態度は、はなはだしい。(もちろん、例外は存在する)
 彼らの多くは、診断・治療・ケア全般に当たって、発症経路(原因・背景)に対する考察や配慮・考慮を、まともに行おうとはしない。
 病の原因を問おうとせず、表層的な個別症状にしか目を向けないのだ。(現在のところ、精神医療全般、ひいては医療そのものが、そのような旧態依然とした状態にある)
 また、そうした個別症状をコントロールすることにしか、興味・関心を持たず、眼中にない。
 結果として、対症療法としてすら、ろくに機能しない、場当たり的な対応に終始するのみ。
 患者/クライエントが抱える病を、現に生じている多彩・多様な症状から、総合的・全体的・多角的に見ようとはしない。
 そもそも、複合的・包括的なPTSD概念への知識・認識・見識がなく、CPTSDの可能性など、俎上にも載せないのだ。
 
 精神医療関係者(福祉行政関係者なども同様)は、たとえば、何かあるとすぐに、親をはじめとする原家族に連絡をとろうとする。
 その親が、子ども期の虐待の加害者であり、機能不全家族そのものが、病の原因であるにもかかわらずだ。
 回復のための最初の課題として、まず、安全の確保・確立が必要なのである。
 自己コントロール能力の再建(特に、自傷行為/自己破壊行動の防止のため)とともに、危険な人間たち(原家族など)を遠ざけて切り離し、安全な人間関係/環境を構築することが不可欠なのだ。
 
 精神科医の多くは、診療・臨床において、精神療法を用いず、薬物療法中心の治療を行っている。(精神療法を修得し、駆使できる技能や経験を持つ精神科医自体、ほとんどいないと言ってよいだろう)
 それはそれとして、にもかかわらず、彼らは、精神療法が必要な患者/クライエントに対して、その提供のための橋渡し/コーディネートをしようとしない。
 もっとも、CPTSDに対応できる精神療法家/サイコ・セラピストそのものが、きわめて少ないのも事実だ。
 CPTSD者の治療には、単なる支持的精神療法ではなく、高度な力動的精神療法が必要である。
 受容・共感を中心に、クライエント自身による自主的な問題解決を目指す(そのためには、クライエント自身に問題解決能力が備わっていることが、前提になる)クライエント中心療法は無効であり、いわゆるカウンセリング/カウンセラーの手に負えるものではない。
 



「家」という名の強制収容所 〜家父長制社会の犯罪性〜

 
 子ども虐待(特に、性的虐待・近親姦)は、家父長制家族構造がもたらす必然的結果であり、そうした家族構造がドラスティックに変革されないかぎり、減少することはない。
 虐待の被害者であるトラウマ・サバイバー自身も、もし真に回復したいのであれば、自らの家族に対する依存・執着、内攻化・内面化された家父長制イデオロギー/家族構造への固執・妄執や拝跪を、自覚化・直面化〜自己対象化し、批判的・自覚的に破棄・放棄して、超克しなければならない。
 子どもにとって、世界でもっとも危険な場所は、戦場ではなく、家だ。
 



家族トラップ 〜隠蔽・否認・矮小化〜

 
 家庭内に存在する問題を、隠蔽・否認・矮小化するのも、機能不全家族に共通する特性・特徴の一つである。
 また、彼らは、家庭内への外部からの介入を、極度に嫌う。
 そうした家族トラップから抜け出すのは、被虐待児やトラウマ・サバイバー自身には、非常に難しい。
 医療機関や行政、そして、さまざまなサポート・グループが、きっちりコミュニケーションをとり、手を組んで、被虐待児やトラウマ・サバイバーを原家族から分離し、その後も、原家族からの干渉をシャットアウトして、ガードする必要がある。
 被虐待児やトラウマ・サバイバー自身の、原家族への依存心・執着心を克服させることも、合わせて必要になる。
 だが、こうした作業を実践するには、あまりにも多くの、さまざまな制約・障害が山積しており、現状では、その実現は困難をきわめる。
 



CPTSDと人格障害

 
 CPTSD者の多くは、未成熟で、認知・思考や発言・行動が歪んでいる。
 彼らは、(彼らの親・家族がそうであるように)程度の差こそあれ、Borderline Case/境界例、Borderline Personality Disorder(BPD)/境界性人格障害をはじめとする、Personality Disorder/人格障害(パーソナリティ障害)を併発していると考えてよい。
 彼らは総じて、歪んだ人格の持ち主である。
 
 人格障害傾向の強いCPTSD者は、自己愛型の誇大感・全能感を抱いており、尊大・高慢・横柄で、誠実さ・謙虚さが欠落している。
 そして、自分の問題(病)を自覚・認識し、状態(症状)を改善していくために必要不可欠な、現実の自分と向き合う「自覚化」「直面化」作業に取り組むことが困難である。
 本人自身は、「向き合っている」と思い込み、そのつもりになっていたりするのだが、それはあくまで、自分が抱いている誇大感・全能感に添い、歪んだ認知・思考を反映した、ご都合主義で的はずれなものにすぎない。
 彼らに対し、問題点を指摘して、自覚化・直面化させようとしても、聞く耳を持たない。
 反発したり、さらには攻撃してくるばかりなので、手がつけられず、相手にするだけ徒労であり、時間の無駄と言ってよいだろう。
 
 CPTSDからの回復と、そのために必要不可欠な成長は、適切・相応な自助努力なしには、獲得し得ない。
 彼ら自身が、自らの意志で、自覚化・直面化をはじめとする自助努力の数々を行わざるを得ないところまで、追いつめられないかぎり(これを、「底つき」と呼ぶ)、回復・成長の可能性はなく、何もはじまることはない。
 



周辺症状や行動化の意味

 
 CPTSD者が発症する、抑うつや各種の嗜癖/依存症など、さまざまな周辺症状や行動化(アクティング・アウト)は、さして重要ではない。
 多彩・多様な周辺症状や行動化のみに着目〜問題とし、それらに目を奪われ、とらわれてはいけない。
 周辺症状や行動化さえなくなれば、それでよい〜問題が解決するとして、それらの治療・抑制しか考えないかぎり、顕在化する周辺症状や行動化、潜在化する問題性は、もぐら叩きのごとく、終わりなき負のサイクル・負のループを繰り返すだけであり、そこから抜け出すことはできない。
 
 問題の真の核心は、周辺症状や行動化の背後にこそ存在することを理解・認知し、自覚・認識しなければならない。
 それは、あなた自身の未成熟さや、認知・思考の歪みであり、そこから派生する発言・行動の歪みである。
 極言すれば、行動化のみならず、周辺症状もまた、すべて、言語化されない行動化の一種(静的行動化)であり、それら(人格の未成熟さ・歪み)が極限的にもたらす、無意識下の自己表現にすぎない。
 あなたが唯一、真剣に取り組み、克服すべき真に重要な問題・課題は、自らの未成熟で歪んだ人格の修正・矯正であり、けっして、周辺症状や行動化の治療・抑制、ましてや社会復帰などではない。(回復・成長なき社会復帰は、回復・成長を妨げ、病の固定化・悪化をもたらす)
 




CPTSD/人格障害からの回復・成長のために 1 




『蒼穹』 (C) SLAN