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虚空の中で‥‥‥
    ―――空虚さ、そして、欠落を見据えるということ
 
 佐上 令
 
 
 人は、わかりあえない。
 だからこそ、わかりあおうとするのだ。  わかりあえないことに気づいたときの絶望から、他者とのコミュニケーションがはじまる。
 
 理解や信頼は、多くの誤解の中から、辛抱強く、少しづつ見いだしていくもの。
 そうしたものを拙速に求め、その過程の困難さ・面倒さに耐えられない、刹那的で自己中心的な人間は、相互理解のフィールドから逃避/脱落していくのみ。
 
 
 ゆめゆめ、幻想や錯覚に安易に身を任せて、わかった気になってはいけない。
 
 わかっていないことに気づくことが、大切なのだ。
 わからないことをわからないと自覚し、認識することが、出発点だ。
 
 わかっていないことに気づかぬかぎり、わかることはできない。
 その上で、わからないことをわかろうとする意志と覚悟、そして実践が、必要なのだ。
 
 自己正当化・合理化を避け、自分の中の認知の歪みや誤謬に、敏感になることだ。
 
 想像力は、そのためにある。
 
 
 問題は、自分を自己対象化しているかどうか。
 そして、相手に伝わりうるもの/理解されうるものとして、理性的・論理的な言葉を紡いでいるかどうか、なのだ。
 
 同じ空間・場(Real world、Wiredを問わず)を共にしているだけでは、コミュニケーションは成立しない。
 双方が、他者とのコミュニケーションに対して、相応の意志と覚悟を持ち、そのための能力やスキルの習得・研鑽、努力をしないかぎりは‥‥‥。
 
 なお、言葉や思想の「力」をみがき、また、誠実さと謙虚さを失わないならば、単にわかりあえたつもりになり、戯れ事に興じるだけの、いい気な人々には想像もつかない、充実したコミュニケーションの現象化も、まったく可能であろう。
 
 
 虚無や絶望と向きあい、受容し、何もないここに、踏みとどまりつづけることができない人間は、早々に転向していく。
 そして、あきれるほどの変わり身のはやさで、通俗的欲望/価値観にからめとられ、しがみつきはじめる。
 臆面もなく、「希望」やら「幸福」やらの、耳あたりのよい言葉をもてあそびながら。
 (そればかりか、転向者の常として、傲慢に開き直り、急速に反動化していくのが、お決まりのパターンだ)
 (現状を肯定し追認する人間は、その存在・あり方によって、現実の状況の維持・固定化に加担しており、社会の変革の進行を阻害する)
 
 
 感性と論理を研ぎ澄まし、自己と世界の空虚さを直視して、そこに欠落している、さまざまなもの・ことは何かを見きわめ、見据えることが、すべて。
 
 
  記憶はすでにカラスの死体
  バラバラに崩れて落ちていく
  楽しげなお嬢さんどもに
  俺の狂気がわかるはずもない
  もう戻れない 二度と戻れない
『戻れない/NO MORE NO MORE』(Steven Tyler/岩谷宏・訳)より  
 
 
(2000.12.12.) 
 
 
 
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